俗にタクシーの運転手さんが好むラーメン屋はおいしいという。
深夜営業の店もあるし、手早く食べられるし、仕事中の数少ない息抜きだろうから、ラーメンが好まれるのもわかる。
およそ四半世紀前、学生の頃、昼夜逆転で卒論を書いていた。夕方起きだして、ナイターを見ながらスーパーの安売り惣菜で朝ごはん。
ダラダラと卒論をつついては、一向に進まず、夜中にご飯を食べに出かける。
近所には甲州街道が走っており、牛丼屋やマクドナルドなど 24 時間営業の店もチラホラ。
さすが大都会 TOKYO、地元じゃ 22 時過ぎたら人通りも少なく、信号機も点滅してるのに。
今では信じられませんが、当時の私はラーメンにとくに興味なく、サッポロ一番塩ラーメンをまとめ買いしては、仕送り前を食いつなぐくらいでした。
ただ、その夜に限ってなんとなく、街道沿いのラーメン屋に足が向いたんですよね、タクシーが 2 台止まっていたのが気になって。
店名やメニューなど細かくは覚えていませんが、ラーメンが 5、6 百円くらいで、店先の看板には「とんこくラーメン」の文字がありました。
コの字のカウンターが厨房を囲み、調理風景をボーッと眺めながら基本のラーメンを待つ。手際よくつくられた一杯が、程なくして運ばれてくる。
まずはレンゲでスープをひと口。お、なんだこの味は。福岡で食べたとんこつとも、いわゆるしょうゆとも違う、くさみとうまみが入り混じった独特の味。
今思えば家系ラーメンに近いのかもしれませんが、当時はそんな知識もなく「ラーメンっていろいろあるんだな~」と感心することしきり。
それから週に 1、2 度通ううちに卒論も脱稿し、昼夜逆転も終わり、私のラーメン熱もいったん冷める。残ったのは、4 キロ増えた体重のみ。
やがて卒業とともに街を離れ、いつの間にやら店もなくなっている、よくあるパターン。
そんな思い出、とんこくラーメンの字面を看板をみかけて暖簾をくぐる。
江戸だしって、以前の店にも書いてあった気がするけど、商標なのかな。資本関係とか、師弟関係とかあるのかな、と思ったけど、ググるなんて野暮はせず、懐かしい味を楽しむ。
たぶん、こんな味だった。唇テラテラになるスープ、シャキシャキのネギ、スープによく絡む中太麺。
ランチタイムだから午後もお仕事。でも、どうしてもニンニクが恋しくなったので、さじの先にほんのひとかけらすくってスープに溶かす。そうそう、コレコレ。
懐かしさもあって、あっという間に完食。あの頃と違うのは、すぐに胃がもたれるくらいで。これは正しい歳のとりかただな、とほくそ笑む。
また、食べたいな。夜に来て、ニンニクをガツンと入れようかな。ビールも飲んじゃえ。思い出補正、上等だ。
ごちそうさまでした。