焼いてない、茹でてもいない、ふやかした麺。それにソースをまぶして出来上がり。なのになぜ、焼きそばを名乗るのか。
ソース焼きそばの本領は、ソースの焦げた匂いにあると思うんだけど、カップ焼きそばにはそれがない。
それでもヒトの心を鷲掴みにするのはなぜなのか。チープな味に身を任せるスリルが、その理由じゃなかろうか。
カップ焼きそばはやたらお湯をつかう。そのうえ食べる前には湯切りして捨ててしまう。
それゆえ学生の頃、皆で集まったときなどは、お湯の配給順を後回しにされたっけ。懐かしい思い出。
家族が出かけたあと、密かにお湯を沸かして待つこと3分、ベコっという流しの音こそがカップ焼きそばの醍醐味です。
いつの間にやら、湯切り装置は改良されており、麺がドバドバの悲劇はもはや起こりえない。進歩とみるか、堕落とみるか。当然前者だけどネ。
しっかり湯切りして、蒸気を飛ばしたのち、液体ソースを回しかける。ソースの匂いが鼻腔をくすぐり、思わず頬がゆるむ。
かつて粉末ソースが主流だった頃は、あえて湯切りをあまくしてソースのなじみをよくしたもんだ。
たまにある味のムラ、濃い部分が好きだったな〜などと思いつつ丁寧にかき混ぜる。
さて、部屋じゅうに広がる幸せな匂いに包まれながら、スッスッと麺をすする。あたかもソースを飲んでいるような禁断の味に、ビールも進む。
ちなみに、カップ焼きそばはネーミングの由来も個性的で面白い。
ペヤング=ヤングがペアで食べて欲しい
UFO=うまい、太い、大きいの頭文字
一平ちゃん=平成で一番になるように
なるほど、一平ちゃんは今後どうするんだろう。とか思っているうちに麺はみるみるなくなる。
具材はアクセントにはなるけど、さあ味わってやろうかと気合いを入れるほどではない。それゆえ箸のスピードをゆるめる間もなく、完食に向かう。
うん、おいしかった。これほどビール力があるとは、見直したぞ、カップ焼きそば。
ただし、部屋じゅうに広がる匂いは、換気扇では心もとなく、夕方には隠密行動が家人に知られることだろう。
でも、あえてファブらないのがカップ焼きそばとの約束だ。
ごちそうさまでした。