食べ物に関する刷り込み効果は、およそ実家の食事に依る。コロッケは俵形とか、何にでも醤油をかけるとか。わが家のルールが暗黙の掟でした。
外食をする年頃になると、同調圧力というか、食の世間水準を少しずつ学ぶ。それに並行して、家庭料理にはない、初めての食体験を積んでゆく。
立ち食いそば好きの私ですが、初めての立ち食い体験ははっきり覚えています。高校の模試帰りに中央線のホームで食べた、素きしめんでした。
立って食事するというインパクトもさることながら、初めてのきしめんも印象深い食べ物でした。ヒラヒラの麺、花がつお、ダシのきいたツユ。
そんな原体験のせいか、たまに無性にきしめんが食べたくなる。東京で出す店は少ないけど、店舗限定ながら取り扱いのある富士そばへ向かう。
各種うどんそばに+30円できしめん変更が可能。ここはシンプルに、初心に帰る意味でも月見にしておこう。ほどなく呼び出しがかかり、ご対面。
きしめんは縦横のないうどんと違い、唇を通るとき横になる。そう、喉越しよりも、唇を通るときのピラピラを堪能するのが、きしめんの醍醐味。
それにしてもツユが熱い、やたら熱い。あっという間に固まる白身を先にツルリ飲み込み、残された黄身をジンライムのようなお月さまと仰ぐ。
うどんでいいじゃん、という向きもあろうけど、両者は、+ドライバーと−ドライバーくらい違うよね。丁寧に1本、いや1枚ずつ食べてゆく。
残りわずかで秘蔵っ子の黄身を割り、フェットチーネさながらに楽しむ。おいしいな、きしめん。やっぱり刷り込みには抗えない、と改めて思う。
ごちそうさまでした。