ランチにも季節商品がある。代表的なのが冷やし中華。5月、6月から始まって、9月には終わる。リゾラバのような儚い夏の恋よりは長いけど、数か月の楽しみ。
あるいは、通年あるのだけれど食べごろが限られたものもある。思いつくのは鍋焼きうどん。オリオン座がサソリ座を恐れるように、冷やし中華と季節が入れ替わる。
桜の花の咲く頃は、まだ肌寒い日も多く、鍋焼きうどんの食べ納め時期である。風邪をひいて真夏に食べたこともあるけど、本来はこの季節までがおいしく食べられる。
https://socius-lover.hatenablog.com/entry/2019/08/07/072000
こちらのツユは関東風の甘〜いミリン味なので、クタクタのうどんも似合うのよね。しばらくしてやってきた鍋焼きは、地獄の釜のようにグツグツと煮えたっている。
まずはひと口、匙で直にツユをいただく。かなりの熱量を帯びたツユは、藤吉郎が信長に出したお茶の1杯目はこれくらいだっただろうと思わせる温度です。熱いっす。
その熱を帯びたうどんはクタクタで、トンスイに取り上げようとしてもプツプツと切れてしまう。丁寧に取り分けて、ツユとともに食べれば、甘くて、熱くて、うまい。
宮城リョータが湘北にスピードと感性を与えてくれたのは、令和っ子の知るところになりましたが、鍋焼きでは海老天の衣がツユに油っ気と旨みを与えてくれます。
とにかく、取り分けてはふうふう、ズルズルといそがしい。厚手の衣がたっぷりとツユを吸い、どこからかじるかためらいますが、半分ほどガブリといけば、唇が熱い。
エビはザクザクと歯ごたえよく、すぐにツユを飲めばごはんが欲しくなる味わい。水菜も、カマボコも、ゆず皮も、どれも欠くことのできない湘北ベンチメンバーです。
そして、熱の入った玉子をレンゲでそおっと取り分け、黄身を崩してうどんとともにすすり込む。ああ、このうえない幸福感にアランも椎名林檎もびっくりでしょう。
七味を多めにふれば、辛さも加わって体温の上昇にブーストがかかる。流れる汗もそのままに、小鍋との押し問答を終えて、一気にグラスの水を飲み干す。甘露、甘露。
ごちそうさまでした。