今日も 来て しまった

おいしく食べて、温かい布団で眠る。しあわせのかたちを考える日々の記録

メメント(家族のこと 2)

「おかあさん、これ『高校』じゃないよね。なんて読むの?」


ずっと普通学級に通っていた兄は、中学を出たら当然に高校へ行けるものと思っており、門柱にある「養護学校」の文字を初めて見たとき、不思議そうに母に尋ねたという。


昭和のいじめっ子なんて加減をしらない苛烈なことをするもので、自閉症で知的障害のある兄は、中学校へ上がると格好のターゲットにされたらしい。殴る、蹴るや持ち物を盗られるなんてのはよくあったようで、帰り道に犬のフンを舐めさせられたとも聞いた。今、人の親になって思えば、それを聞かされた母の思いはいかようだったものか。それだけで胸が痛む。


その頃、多動気味だった私も小学校に上がり、世界の中心が家族からずれ始めていたので、当時の兄のことはあまり覚えていない。まだ、茫漠としていた。

長じて母から聞いたのは兄の運動会の話。クラス全員リレーでどうせアイツがいるから勝てないな、なんて言われていたところを担任の先生が走者順を工夫して、生徒を鼓舞して見事に優勝したとか。兄が嬉しがったかはしらないけど、母はいい先生だったと懐かしがっている。


兄は 50 歳を超えた今でも、昔住んでいた地域を訪ねることを好む。でもそれは懐古的な意味合いではなく、自閉症による反復性に起因するもので、兄がむかし話をすることはまずない。

母というフィルターがどれだけ客観的なものかはわからない。むしろ主観の権化かもしれない。でも、昔語りを覚えているうちに書き出すのも、悪くないと思える歳になった。そう、いい意味で歳くった。


高校受験の報道をみて、そんなことを思いだす休肝日の夜。