今日も 来て しまった

おいしく食べて、温かい布団で眠る。しあわせのかたちを考える日々の記録

定食春秋(その 666)エビフライとクリームコロッケ定食

 

戦中生まれの母は、食べ物に火をよく通す人だった。焼肉はロースをカチカチになるまで焼き、ハンバーグはグツグツ煮込み、トンカツはひと口大のひれをこんがりと。

 

親にいうのもなんですが、親の仇のように生焼けを嫌っていた。なんなら、刺身もあまり食卓にのぼらなかったし、戦後育ちなので当時の衛生環境かもしれない。

 

そんなわけで実家のエビフライは、小エビだった。カールよりも小さい真ん丸な小エビ。卓上の醤油をタラリとかけて食べたっけな。思い出補正だけど、おいしかった。

 

国語の教科書で「盆土産」を読んで、初めて世の中には真っ直ぐ大きなエビフライ、いや、えんびフライがあると知った。母にきくと「うまく揚げられない」らしい。

 

母本人は油ものを好まず、子どもたちが好きだから揚げているにすぎない。今なら真ん中に串を打てば真っ直ぐ揚がるとわかるけど、むかしはレシピ本もなかったしね。

 

そんなわけで、真っ直ぐなエビフライをみると、いまだに背筋がのびる思いです。小瓶に入ったソースを大皿にかけ回し、ベジファーストでソースレタスを喰む。

 

味噌汁をひと口飲んでから、いざ、えんびフライ。手品にかかったように真っ直ぐなエビフライは、カリカリに揚がっており、ひと口食べれば即、ごはんが欲しくなる。

 

思えば最近エビフライを食べない。酒のアテなら小エビの唐揚げがいいし、そばなら天ぷらがおいしい。エビフライは「食べるかな」と意識しないと、選択肢に入らない。

 

ところで、エビフライの隣のクリームコロッケもしっかりおいしい。マカロニが入っているのが意外な味わい。店で食べる洋食にハズレなし。おいしいに決まってる。

 

…思えば母は朝食は子どもの残り、昼食は弁当の余り、夕食は味見で十分、といった食生活だった。自分でつくったものは添加物がないので、安心できると言っていた。

 

自分の好き嫌いではなく、子どもがおいしいと残さず食べてくれそうなメニューをいつも探していたっけ。一時期、金子信雄の楽しい夕食にハマっていたのか懐かしい。

 

エビフライを食べると、いつも郷愁を誘われる。お袋の味という言葉は嫌いだけど、アメリカ人なら当たり前に胸を張る家庭の味なのかな。そんなことを思いつつ完食。

 

ごちそうさまでした。