今日も 来て しまった

おいしく食べて、温かい布団で眠る。しあわせのかたちを考える日々の記録

定食春秋(その 637)ひれかつ定食

 

 

毀誉褒貶あるけど、美味しんぼは名作である。バブルで浮かれたグルメに喝を入れつつ、豊かな食文化の素晴らしさを教えてくれた。残念なのは、思想に走ることかな。

 

そんな美味しんぼといえば「馬鹿どもに車を与えるな」「山岡さんの鮎はカスや」「しゃっきりぽん」「SM-DOS」など名台詞が数多いけど、中でも一番なのがこれ。

 

トンカツ屋の主人が、お金のない青年に店でトンカツを食べさせながらこう言う。

 

「いいかい学生さん、トンカツをな、トンカツをいつでも食えるくらいになりなよ。それが、人間えら過ぎもしない、貧乏過ぎもしない、ちょうどいいくらいってとこなんだ」

 

これは、わかる。わかりすぎて沁みる。この台詞は経済的なことをいっているけど、身体的にも、精神的にも、トンカツをいつでも食べられるくらいが健全であろう。

 

 

どうしても、母の手料理を思い出してしまうけど、わが家のトンカツは薄切りのひと口ヒレカツであった。どちらかというと、ウスターソースより醤油が似合っていた。

 

高校のころ、外食で初めて分厚いロースかつを知った。母にそのことを話すと「中まで火が通らんがいね」とのこと。まあ、昭和のひとは、豚肉の加熱に熱心だよね。

 

ランチタイムは混み合っており、先付けとしてやってきたサラダとお漬物をつまみつつのんびり待つ。おかわり自由というけどこれくらいが、ちょうどいい量だよね。

 

キムチはしっかり辛く、野沢菜はちょうどよい塩っけ。切り昆布の大根漬けは少し酸っぱいかな。千切りキャベツもシャクシャクで、どれもカツの油と似合いそう。

 

 

混み合うのは人気の裏返しだけど、昼休みには限りがあり、少し焦り始めたころに青紫蘇ごはんと赤だしの味噌汁が到着する。味噌汁の酸味と渋みで、箸を湿らせる。

 

で、本命のロースカツが登場。何もつけずにひと口かじると、私のような幸せ舌にも豚肉の甘さがよくわかる。脂身がないのにこんなに旨みがあるなんて、感激です。

 

ソースは辛口と甘口があり、まずは甘口でひと切れ。ごはんがすすみますな。辛口はスパイスがきいており、ますますごはんがすすむ。とはいえ、おかわりはしない。

 

経済的にトンカツをいつでも食べられるお年ごろは、それほど量を食べられないのだね。それに会社までの帰り時間を考えると長居はできないし、テキパキ食べてゆく。

 

そういえば、所用で昼休みに母に電話したとき「あら、ひとりで食べるの? 寂しいじ」と言われたっけな。いつまでたっても子ども扱いされるのは、末っ子の宿命か。

 

そんなセンチな思いとは裏腹に、お腹はグングン満たされていき、九分九厘埋まったところで完食です。あのころの未来に立つということは、こういうことなんだね。

 

ごちそうさまでした。