私は小心者である。ゆえに悪目立ちしたくないし、場の空気を読まないやつと思われたくない。だからこそ明文化されていないローカルルールがある店は緊張する。
ラーメン二郎のように、ネットである程度開示されているものならば、まあわかる。これが立ち食いそばだと、先払いなのか、受け取り時払いなのか、不明瞭である。
仮に券売機でも、席は先にとるべきか、お水はセルフなのか、下膳場所はどこかなどなど悩みは多い。たいていは取り越し苦労だけど、初めての店には慎重になる。
こちら横浜駅西口すぐの立ち食いそば、鈴一。イスがないどころか、客の多くはテーブルもない路上で丼ぶり片手にそばをすすっている、いわばストロングスタイル。
遠目にみて憧れはあるものの、ルールがいまいちわからない。券売機があるので注文はなんとかなるけど、店横にあるテーブルはどう使うのか、水は下膳後に飲むのか。
とりあえずお客さんが少ないところを見計らい、蛮勇をふるって立ち寄る。ずっと、券売機にある「きしめん」が食べたかったのです。初心者なので、かけにしとこう。
食券を出すと、きしめんが素早く丼ぶりに盛りつけられ、ツユが注がれるやネギが散らされる。あらかじめ箸を手に取り、七味をふってから丼ぶりを左手で把持する。
持って食べるのが前提だからか、丼ぶりは手になじむ大きさで違和感はない。目線を上げて、ツユがこぼれないように路上へと歩き、ガードレールを背に箸を口で割る。
ツユをひと口飲めば、ダシもカエシもきいている。実に好みのタイプで、今までの小心者ゆえの食わず嫌いを後悔するクオリティ。ネギがほどよく煮える熱さもグッド。
きしめんは当たり前だけど平べったく、ピロピロと暴れつつ口に飛び込んでくる。その美しいプロポーションは、うどんとはまるで別人、いわば初夏の日の2023です。
かけきしめんゆえに食事は単調で、きしめんをすするか、ネギをつまむか。路上食べなので緊張感もそれなりにあり、周囲に気を配りながらも、威風堂々と食べてゆく。
立ち食いを超える持ち食いそば。昭和を彷彿とさせるスタイルですが、安さゆえか、それともレトロさが「映える」のか、若いカップル客の姿もみられるのが興味深い。
初デートで「サイゼリヤ」に連れていってもOKな彼女かどうか見極めろ、なんて記事を読んだことがあるけど、何度目だろうと、持ち食いそばはハードルが高そうだ。
左手が疲れてきた頃きしめんを平らげる。ツユが好みなので飲み尽くしてしまいました。結局、水を汲む&飲むタイミングはわからないまま、下膳して帰るのであった。
ごちそうさまでした。