「田舎もの」はどう文脈を整えても、褒め言葉にならない。あえて使うならば謙遜だろうけど、極論を言えば京都以外は皆田舎だし。
そもそも田舎というのは、都会との対比で語られる。洗練と素朴、過密と過疎、ビルと田園。2値化したいけど、そう単純でもない。
そう、田舎の対義語として更科もあるのだ。そばの実の中心部分が吟味された更科は、白っぽく、甘みが強い、いわばそばの大吟醸。
一方の田舎は、そば殻まで一緒に挽くので、黒っぽくなり、太めで風味があるけど、クセが強い。好みはあれど、どちらもおいしい。
そういえば、幼い頃そば殻の枕を愛用していたのですが、思えばあれば更科そばをつくった余りなんですね。懐かしいな、あの感覚。
さて、こちらは立ち食いでは珍しく、更科そばか田舎そばが選べます。+10円で食券を購入すれば、全メニュー更科に変更可能です。
以前は田舎、更科と各メニュー2種ずつ売っていたけど、メニューが増えたのか更科はスタメン落ち。ムム、こうなると応援したい。
10円玉で買える贅沢、うすい食券握りしめ、カウンターへ。朝時間帯なので更科は茹でたて、ゲソかき揚げも揚げたてが楽しめます。
ふと壁のお品書きを見ると、更科と田舎で文字のフォントまで違う。更科は勘定流、田舎は毛筆体、密かなこだわりにニヤリとする。
更科の繊細さは盛りそばじゃないとわからないよ、と心のそば通が叫ぶけど、あいにくアタシャ立ち食い上等の粗忽な麺好きなので。
呼び出しがかかり、恭しくそばを拝受する。かき揚げが威容を放ち、黒いツユに泳ぐ更科は、森に迷い込んだ白雪姫のごとく美しい。
そばをすすれば、アツアツで、ダシもカエシもきいた濃いめのツユがよく似合う。たしかに田舎に比べると、細く、なめらかです。
かき揚げはカリゴリとして噛むのが楽しい。玉ねぎの甘みが際立ち、ゲソがサクサクと歯切れよく、紅生姜の香りがいいアクセント。
ふうふう、ズビズル食べるうち、じわり汗をかく。田舎ものの自分が都会の片隅で、朝から更科を食べる。思えば遠くに来たもんだ。
ごちそうさまでした。