イカ天でバンドブームを思い出すのが、中年のお作法。食べるたび、心の中で相原勇が弾む。そんな郷愁を秘めつつ、小銭を用意して出来を待つ。
そばを湯通し、イカ天をのせ、2回ツユを注ぎ、トングでネギをひとつまみ。何万回と繰り返しただろう、無駄のない所作はいつも見惚れる。
まずはそばをツルツル。フワフワの茹でおき麺がやさしい。ツユは、だしとカエシのバランスがよく、とがったところなく胃に流れ込んでくる。
主役のイカ天。衣にたっぷりツユをまとい、サックリ歯切れよく、淡白な旨味が口に広がる。シンプルだからこそわかる、イカ本来の実力です。
鱗のない魚を食べない、ユダヤ教のタブーの影響か、欧米はイカやタコをさほど食べない。勿体ないと思いつつ、おいしさがバレないように祈る。
イカ天やイカフライの「スポッと抜けて衣だけ残る」問題は、イカの絶妙な彎曲のおかげで、最後まで強固なスクラムのまま食べられました。
年配のおかあさん店員二人が、ワイドショーにいちいちコメントする昭和なムード。ついつい、こちらもスポーツ新聞を広げてお行儀悪く食べる。
ごちそうさまでした。