麺喰らう(その 560)ナポリタン
ゆるやかな坂道と街並みに溶け込む、昔ながらの喫茶店。スタバともコメダとも一線を画したシンプルなメニューには、胸を打つ趣きがいっぱい。
いつもナポリタンを頼むんだけど、ふと中年の稚気か、ミートソースが気になる。いずれにせよ、食後は口を丹念に拭わなければなりませんね。
しばし悩んでミートソースを頼んだところ「すみません、売り切れで」とのこと。これもなにかの縁、気持ちを切り替えて、ナポリタンを注文。
ナポリタンがパスタの本場イタリアにないのは、言うまでもない。中華丼、明太フランス、トルコライス、スイスロール…どれもおいしいのだ。
さて程なくやってきたナポリタン。シャア専用の如く赤く染まったにくいヤツ。マスクを外せば、食欲をそそる香りがおいしい食事を約束します。
具材はピーマン、玉ねぎ、マッシュルーム、ウインナー。王道にして覇道と言えまいか。粉チーズをザブザブかけて、くるくる巻いて口に運ぶ。
やさしくて、おいしい。ケチャップの甘酸っぱさは、どんな強面だろうと笑顔にしそうな、誰にでもあった幼心を呼び覚ます魔力を秘めてます。
ともするとくどいケチャップの濃さをサラダでリセットしつつ、くるくるもぐもぐ。後半戦はタバスコを振って心と胃袋に火をつけちゃおうかな。
喫煙できるからか、常連風おじいさんが入れ替わり立ち替わり。ひと言ふた言交わしては、コーヒーを飲み、スポーツ新聞を回し読みしている。
もののあはれを覚えつつ、食後のアイスコーヒーをいただく。ガムシロップ、コーヒーミルクを入れるけど、あえてかき混ぜないのがおいしい。
白黒のコントラストだけでなく、序盤は底に溜まったシロップが甘く、次いでコーヒーの苦味、最後にまろやかなミルクが楽しめる三段方式です。
店の奥ではカラオケ装置が寂しそうに佇んでいます。呑気な世のなかに戻って、おじいさんたちがのど自慢できますように! 心より祈ります。
ごちそうさまでした。