おおひなたごう作「目玉焼きの黄身 いつつぶす?」が面白い。多種多様、十人十色な食へのこだわりをユーモラスに描いており、自分にない視点が興味深い。
作中でつけ麺は「ぬるくていい」と評価される。熱々のつけ汁にキンキンに冷えた麺をくぐらせれば、確かにぬるくなる。だが、それこそがつけ麺だ、と。
言われれば、フレンチのコースなどはぬるいのが基本だし、熱々や冷え冷えを尊ぶのは日本人ならではの感覚、思い込みなのかもしれない。で、肉せいろそば。
濃いめのツユに薄切りの豚バラが泳ぎ、魚のダシの肉の旨みが交換留学している。そのままひと口飲めば、しゃぶしゃぶのタレの如く、どっしり構えている。
刻みネギを浮かべ、そばをくぐらせ、一気にたぐる。そばは最初冷たくて喉越しよく、次に熱を帯びた旨みの波が押し寄せる。温そばとは違う、寒暖差攻撃。
エントロピーの法則通り、予定調和のごとく、ぬるくなりゆくツユ。だが、それがいい。ネコ舌ではないけど、歳をとったのか中庸といった温度が落ち着く。
味変で、そばに直に七味をふる。ツユにかけたのとは異なり、直接に舌を突き刺す刺激が楽しい。ぬるさを味わい尽くし、最後にツユをふた口だけゴクリと。
ごちそうさまでした。