そばはもともとファーストフードである。気の短い江戸っ子が、屋台でサッと食べるものであり、寿司や天ぷらも同様だった。しかし、なんでも長く続くと権威化する。
そば、寿司、天ぷらはいずれも日本料理の代表となり、押しも押されもせぬ老舗ができて、当然高級店も現れる。本意であるかはさておき、そこにマナーができるのだ。
いくらおいしかろうと、高いお金を払ってマナー違反にビクビクして食べるのはツライ。庶民には敷居が高くなり、それならばとカウンターカルチャーが発達するのだ。
変わりダネが百花繚乱となっている回転寿司、本来の屋台の姿を取り戻したような立ち食いそば。天ぷらはあまりチェーンはないけど、スーパーの惣菜コーナーに並ぶ。
伝統の担い手としての老舗は認めますが、マナー至上主義では文化的発展がない。周りを不快にさせないのが大前提だけど、ある程度食べ方に自由はあっていいと思う。
さて、本日のお昼はもりそば。到着を待っていると食べ方について店主が前客と話している。「ワサビはそばにつけて食べるもので、ツユに溶かすのは立ち食いの流儀」
頭ではわかっているけど、つい横着してツユに溶かしちゃうな。この問題は、刺身を食べるときにワサビを刺身にのせるか、醤油に溶かすか問題と根っこが似てますね。
ワサビは刺身にのせて食べるのがマナー。アラフィフだと、美味しんぼに叩き込まれたマナーです。漫画ではワサビ農家が、涙を流してまで訴えていた記憶があります。
一方で味いちもんめでは「ワサビと醤油をワサビ醤油というソースと捉えるか、醤油と薬味のワサビと捉えるか。それぞれのよさがある」とマナー講師をやり込める。
つまりは食べる側の自由なのだ。しかし、店主のご高税を聞かされてはそうもいかない。太田胃酸の匙くらいのワサビをちびちびそばにのせては、ツユにつけてたぐる。
確かにそば、ツユ、ワサビがそれぞれキャラ立ちしており、これはこれでおいしい。ワサビの清冽さが際立つし、そのあとのそばの香りを引き立たせる。文句はない。
とかくマナーは難しい。私とて刺し箸、橋渡し、寄せ箸はなるべくしないし、肘をついたり、クチャクチャ音を立てたりも避けている。誰のためでもなく自分のため。
小心者ゆえ悪目立ちしたくない。その一心なんだよな。とかいう間にすっかりそばを食べ終え、そば湯をふうふういただく。人生そろそろ終盤戦、考えることが多いや。
ごちそうさまでした。