今日も 来て しまった

おいしく食べて、温かい布団で眠る。しあわせのかたちを考える日々の記録

定食春秋(その 670)うな牛はらみ定食

 

ご馳走の代名詞といえば、牛肉だった。牛肉オレンジ輸入自由化前、牛肉は滅多に食卓に上らず、たまのビフテキ、すき焼きは誕生日や正月などハレの日の食事だった。

 

うなぎも今でこそ養殖や輸入品が年がら年中流通しているけど、かつては土曜丑の日にイベントとして食べる食材だった。牛とうなぎのコラボなんて夢のまた夢である。

 

しかし、そんな昭和の価値観は、今は昔。リーズナブルなうなぎ屋さんの店先に「うなぎ牛はらみ」の文字をみつけ、心がざわつく。なんのお祝いの日でもないのに!

 

さすがに半世紀生きていると、これくらいの贅沢をする予算が財布に入っている。ためらう心をエイッと後ろから押して暖簾をくぐる。給料日前のオレ、ごめんよ。

 

券売機で食券を買い、カウンターに座って到着を待つ。なか卯のような琴J-POPが流れる店内は静かで、うなぎ屋さん独特の燻すような香りもなく、明鏡止水の心境。

 

やってきたのは、お吸い物、漬け物、茶碗蒸し付の思ったより豪華なセット。まずは茶碗蒸しのフタを開け、匙でサラサラとかき回してツルンと飲みこむように食べる。

 

おや、うなぎが入りですね。嬉しい誤算ににっこり。胃のウォーミングアップを終えたところで、恭しくお重のフタを外せば、うなぎよりハラミの香りがやってきます。

 

お重に添えられた塩タレをつけて食べるのかな。まずはそのまま半分かじれば、はらみならではの脂身と赤身のバランス。もう半分には塩タレをたっぷりつけて食べる。

 

当然にごはんが欲しくなる。お重の場合、具材のいた位置の下部が、担当するごはんの領域である。均質な厚みゆえ、丼ぶり飯のようにペース配分を考えなくともよい。

 

付け合わせのワサビやネギで味変しつつ、お重の下半分、はらみゾーンを進む。そろそろうなぎ様を食べるかと箸を入れれば、みっちりした身の手ごたえ、うれしいね。

 

香りの薄かったうなぎだけど、食べるとしっかり香ばしい。タレが適量なので、はらみゾーンに流れ出さず、上半分はうな重、下半分ははらみ重として別個に楽しめる。

 

それぞれオカズヂカラに溢れているので、塩分を控えるべく、漬け物はお残し。しばらくプチ贅沢に耽溺したのち、お吸い物を飲すする。仕上げの熱いお茶がおいしい。

 

ごちそうさまでした。