唐揚げが食べたくて仕方ないことがありませんか。カシュっと噛むと、肉汁がジュワー、ハフハフしつつビールを流し込む、な~んて幸せを急募‼︎ そんな唐揚げ腹の日。
正直いえば、竜田揚げでもザンギでも細かいことはどうでもよくって、ひたすらに鳥の揚げ物を求めてさまよう昼下がり。ランチタイムなので、さすがにビールは無理だ、ナミダ。
歩くこと10分。お目当ての定食屋のカウンターの隅に陣取り、いかにもちょっと考えたふりをしてから竜田揚げを注文。すると復唱とともに片栗粉がはたかれて、鶏モモがフライヤーを泳ぎ始めました。
カウンター越しに料理人のきびきびした動きを眺めるのは悪くないですね、これから食べる味が引き締まる気がします。なんとなく。手持ちぶさたなので、竜田揚げについて考えつつ、出来上がりを待ちます。
たしか竜田川に映る紅葉に由来する名前で、片栗粉で揚げるのが唐揚げとの違いだっけ。ああ、マックのチキンタツタ、たまに食べるとふわっとしたパンズでおいしいですよね、アレ。
そうそう、印象深いのはファミレスでの一場面。あれは25年くらい前、大学生だった頃、たしか夏休みのデニーズです。
同郷のY先輩はいつも目をかけてくれて、パチンコで勝つとよくご馳走してくれました。その日も朝からご精勤だったようで、嬉しい呼び出し電話に慌てて駆けつけました。
やはりご馳走してもらうときは先輩よりも安いメニューを選ぶのがマナー。Y先輩が頼むや否や、自然に、素早く、安いメニューを探すのが流儀。
「オレはこのリューデンアゲ」
Y先輩は、タバコをくゆらせながらそう言ったのです。男前の先輩は、いつも通り自身の選択に迷いなどありませんでした。ポロシャツの襟もいつも通り立ってました。
目でメニューを追いつつ、私の耳は意外な単語にバグっていました。
リューデンアゲ? 聞き間違い? なんのキャンペーンだ? どこの国の料理だ? いくらなんだ、いくらのものを頼めばいいんだ。ハウマーッチ!
私の混乱をよそに店員さんはY先輩の手元のメニューを見ながら「若鶏のタツタアゲでよろしいですね?」と自然に訂正しつつ復唱したのです。
……タツタ‼︎ たつた? 竜田なら知ってるぅ。
そのあと何を頼んだかは覚えていません。たぶんハンバーグあたりかな。そしてY先輩とは何を話しただろうか。
たしか、自分は数学受験だからネ、漢字はイマイチでもオーケー、みたいな話を聞いたように覚えています。おぼこい私は、へえぇ~、そこはトレードオフなんだ、と素直にうなずいたものです。
そののち花火をしたときに「浪速の暴れん坊」という手持ち花火(今思えばひどいネーミング)をY先輩が「ローソクの暴れん坊」と読んでいたところまでがセットの、夏の思い出。
そんなことをカウンターで思い出していると、やって参りました、わが竜田揚げ。
まずはみそ汁をひと口飲んで、竜田揚げをガブリ。飛び出してきた油で口の中をヤケドしながら、揚げたてをハグハグと楽しむ。こうなると熱さもご馳走ですね。
あとはひたすらベースアップ。竜田揚げのしょうゆ味でご飯をかきこみ、みそ汁をすすりこむ。油っぽさをキャベツで打ち消して、また竜田揚げへとループ。
小鉢や漬け物も大事な戦力、味のアクセントをつけつつ、よく噛んで、肉の繊維を切り裂いて、唐揚げ腹を満たします。
最後にひと口残ったご飯を咀嚼し、ほうじ茶で流し込む。まだ、こうして油モノを食べたいというのは自分にかすかに残った若さゆえの過ちなのか? ともあれ、会社に帰って胃薬を飲もう。
ごちそうさまでした。