刺し身はごちそうであろうか。
生で食べられるわけだから、当然に新鮮でなくてはならない。
コールドチェーンが発達した今でこそ、刺し身は海なし県でも食べられますが、ひと昔前、昭和の頃なんて冷蔵車ですら珍しかったわけで。
だから、その頃の名残りなのか、新鮮さが珍重されているのは間違いない。寿司とせず、丼ぶりともしない生ザカナ。こいつはありがてえ、といった昭和マインドの残照というか。
そう、昭和後半生まれとしては、刺し身はごちそうなのだ。
だからこそ、飲み会で誰にも手をつけられず干からびていく刺し盛りや、うず高く積まれたツマをみると切なくなる。でもオレが面倒みる! とは言えない中年男の腹具合もある。
そこで刺し身定食。これなら食べきってあげられる。待ってろ、刺し身。
そんな刺し身の味を生かすも殺すもしょうゆ。ベッタリつけたらしょっぱいだけだし、かといってつけないとそれなりに生ぐさい。
オカズにするならやや多めにつけるのがいいんだけど、通ぶって刺し身の上にワサビをのせてみてご飯をかきこむ。
私は誰に対して見栄を張っているんだろうか? たぶん、自分との闘いなんだな、これは。
宴会ではなおざりになりがちなツマも、いざサラダがわりにペロリと食べる。元々は、流通がよくない時代に殺菌がてら添えられたというけど、消化がよくなるし、食べない手はない。
マグロはムチムチ、タコはコリコリ。おっ、サーモンか。こちらも流通がよくなって、すっかり生食軍の一員となりましたね。しょうゆが脂にそまるくらいの濃厚なお味です。
あまりのおいしさにペース配分を誤り、最後は溶きワサビ(!)を箸先につけてご飯を完食。鼻に抜けた辛味をお茶ですすぐ。
…認めたくないものだな、自分自身のおいしさゆえの過ちというものを。
やっばり、刺し身はごちそうです。間違いありません。
ごちそうさまでした。