冷やしそばのツユは、店ごとの個性が色濃く出る。ざるそばのつけ汁タイプ、冷やし中華のような酸味のあるタイプ、ゴクゴク飲めるソーメンツユのような薄口タイプ。
温そばと比べて冷たいぶん、香りは引っこむけど、舌の上でじっくり味わえる。ワサビが添えられることも多く、ツルツルすすり込むと、いかにも夏!という気になる。
とはいえ数か月の付き合いなので、翌年には記憶が定かでなくなる。しかし、年々減りゆく町そばの灯を絶やしてはならないという(勝手な)義務感で今年も食べ歩く。
こちらはご飯もののない、正調町そば屋。実のところは夜営業の銘酒酒場がメインなんだろうな。ともあれ、ここの冷やしは派手な盛りつけと豊富な具材だった記憶が。
脳内フォルダを検索しつつ到着を待てば、記憶通り絢爛豪華なひと皿がやってくる。そうそう、パイナップルがのってたよな。久しぶりだけど、どこから食べようか。
とりあえずパイナップルは横によけてデザートにしよう。別皿のワサビを溶いて、まずはそばをすする。ツユは薄めのつけ汁タイプで、ゴクゴク飲むと喉が乾きそう。
香りのよい二八そばを堪能したのち、具材にとりかかる。しらたきは意外とツユがからまず、しらたきの味を確認する。つど揚げの天かすは刺すようなトゲトゲしさ。
椎茸は甘辛く、玉子も優しい味わい。食べ進めると、キレイに盛りつけられていたはずの器は上を下への大混乱、でも食べるごとにいろいろな味が楽しめる遊園地です。
きゅうりは夏の思い出を呼び覚まし、紅生姜が味を引き締める。まったく飽きることなく食べ続け、いよいよデザートのパイナップル。甘塩っぱさが、胸に刺さります。
ごちそうさまでした。