思い出補正という言葉がある。初恋のひとはいつまでもかわいいし、おふくろの味はなによりもおいしいし、なんならオレちょいワルだったし、とか。
ジャネーの法則によれば、人生80年として、体感的には19歳で折り返しという。ゆえに若き日の思い出はとくに美化され、心のなかのウエイトも大きい。
で、知る人ぞ知るマンガ界の梁山泊「トキワ荘」で「まんが道」展を鑑賞。手塚治虫、藤子不二雄、石ノ森章太郎、赤塚不二夫など、巨匠たちの若き日々。
藤子Aこと安孫子素雄先生の筆致は、とにかく食事シーンが楽しい。メンチカツをフランスパンに挟んだり、焼酎をサイダーで割ったり、どれも食べたい。
なかでもラーメン。事あるごとに登場するトキワ荘近くの中華料理店「松葉」のラーメンは、昭和ノスタルジーも相まって、食べたいマンガ飯でも最上位です。
ラーメンを注文して、店を見渡せば、漫画家のサインが、森田まさのり、田中圭一などズラリと飾られてます。おや、石ちゃんこと石塚英彦御大のサインも!
程なく到着するシンプルなラーメン。何度か食べたけど、また食べたくなる、日々の味噌汁のようなラーメン。まずはレンゲでスープをするりとひと口。
鶏ガラだしの醤油スープはアツアツで、ゆるくウェーブした黄色い麺をすすれば、よくからんで言うことなし。こういうのでいいんだよ、と深くうなずく。
ちゃんとメンマ臭のするこりこりのメンマ、半裁で固茹での玉子、脂身のないしっかりチャーシュー、たっぷりワカメと削ぎ切りのねぎ。楽しくなる面子です。
途中でコショウをザブザブかけて、スープの染みた玉子の黄身を食べる。残った白身のくぼみにスープを満たして食べるのが好き。しみじみ幼き日を思い出す。
コロコロの藤子マンガで育った世代としては、聖地巡礼といえるトキワ荘〜松葉のラーメンです。今どきではありませんが、いつまでも残ってほしいラーメン。
ごちそうさまでした。ンマーイ!